恵迪寮から有名大学院へ

~俺の道vol.11恵迪寮から一橋大学大学院へ進学する人編~


0.企画趣旨


この企画では、恵迪寮(けいてきりょう)に住んでいる様々なバックグラウンドを持つ人々にインタビューをしています。

 世の中にはいろいろな選択肢が存在するということ、またそんな人が身近にいることを知ってもらうことで、中高生の進路についての判断の一助にしてほしいという思いからはじまりました。ぜひ参考にしてみてください!


1.今回のゲスト


今回のゲストは北海道大学教育学部4年のAHさんです。

タイトルの通り、ASさんは恵迪寮に居住し、一橋大学大学院に進学する、という経歴の持ち主です。お金の問題、大学で勉強していること等々気になることをたくさん聞いていこうと思います。


Q1 小さいころはどんな子供でしたか?

 小さい頃は生意気な子どもだったと思います。先生によく口答えをしていました。しかし、先生に歯向かうより、とりあえず謝ったが楽だということに気づいてからは、従順な人間になってしまいました。もっと歯向かっておけばよかった....


Q2出身地・出身高校について教えて下さい

 出身は沖縄県の北部にある名護市という街です。人口は六万人ほどで、きれいな海や亜熱帯の森があります。最近、世界自然遺産登録された「やんばる」地域や、世界的に有名な「美ら海水族館」なども近くにあり、魅力的な地域だと思っています。

 また一方で、米軍普天間基地の移設予定先である辺野古地区も名護市にあり、市民を二分しての論争が起こっている地域でもあります。私は基地移設反対なのですが、友人が移設賛成の意見をもっており、選挙の時にギクシャクしたことを覚えています。

 出身高校は沖縄県立名護高等学校です。沖縄県の北部地域では最も大きな高校で、戦前の旧制中学から続く、歴史ある学校です。最近ではフロンティア科を新設し、進学実績も伸び始めています(進学することが良いことかという問題は置いといて)。一方で、名護高校は部活動が盛んで、ラグビー部は毎年のように花園に行き、サッカーやソフトテニスも沖縄県で一番の実力を誇ります。

Q3恵迪寮に入寮した理由について教えてください。また、恵迪寮での生活の感想を教えてください

 高校一年生の時に見たNHKのドキュメンタリー番組で恵迪寮のことを知り、絶対にこの寮に住みたい、楽しそうと思い、寮に入るために北大受験をしました。

 寮での生活は楽しいことばかりですが、それだけでなく人と真剣に話し合う機会も得ることができます。人と真剣に話し合うことは他者の考え(他者の合理性)を理解することにつながります。

 他者の合理性を理解することは私が学んでいる社会学において、非常に重要なことなので、恵迪寮での生活はとても勉強になっています。

Q4部活やサークルについて教えてください

 サークルはコロナ前までは、マンドリンオーケストラでクラシックギターをやっていました。

 サークルをやっていて良かったことは、「寮生」ではなく「大学生」としての大学生活を楽しむことができたことです。恵迪の楽しさとは別に、「普通」の大学生として、サークルで音楽をやるのは、寮とは違った楽しさがありました。

 また、私はクラシックが好きで札響をよく聞きに行くのですが、サークルでオーケストラに参加していたおかげで、演奏する側の視点で演奏を聞けるようになったかもしれないと思っています。

Q5大学生活で楽しかったことを教えてください

 大学生活で楽しかったことは沢山あります。登山をしたり、キャンプをしたり、スキー、スノボ、ボルダリングなどをしたり、北海道の自然で沢山遊んだことはとてもいい経験になりました。

 また、自分は恵迪寮の「ストーム」※1が大好きなので寮の新歓期にやった「部屋周りストーム」は人生で一番楽しかった思い出です(今年は中止になってしまって本当に残念)。他にも、深夜までうるさくしていた部屋に「ストーム」をかけて荒らしたのもいい思い出です。企画の後にみんなで「都ぞ弥生」※2を歌ったり、仮装パレードで歩きながら「永遠の幸」※2を歌ったりすることも大好きです。

※1ストーム...恵迪寮伝統の大人数で騒ぐ型

※2「都ぞ弥生」「永遠の幸」....北海道大学恵迪寮で毎年作られる寮歌のこと

 他にも、大学生らしく勉強を頑張ったことも楽しい思い出です。学部の先輩とは自主ゼミをしたり、政策立案コンテストに出場したりしました。その中で、多くの尊敬できるような賢い人たちと出会えたことは、自分の向上心にもつながり、いい経験になりました。


Q6これまでどんな勉強をしてきましたか?また、これから大学院でどんな勉強をする予定ですか

 これまでは貧困や教育の不平等に関する勉強をしてきました。以下で、今まで学んできたことのなかで面白かったことを紹介したいと思います


 「自ら進んで落ちぶれる」

 イギリスの社会学者ウィリスは『ハマータウンの野郎ども』で、不良少年たちが自ら進んで「不利な立場」に入っていく過程を説明しました。

 今までは、不良少年たちは学力が低いため、大学にも行けず、仕方なく肉体労働へ従事するようになるという考え方が一般的でした。

 しかし、ウィリスはその考え方とは異なる考え方を提起しました。すなわち、不良少年は女々しいデスクワークではなく、男らしい肉体労働を好み、主体的に、過酷な肉体労働に従事するようになるという考え方です。そして、その不良たちの主体性により、階級社会は上手く回っているとウィリスは考えました。

 詳しく書くと長くなるし、自分にはこの本の良さを紹介する能力が無いので説明はこれくらいにしたいと思いますが、とてもおもしろい本ですので是非読んでみてほしいです(文庫で出されていて、入手しやすいです)。余談ですが、私は卒論で「恵迪寮の野郎ども」というテーマで書こうと考えたこともあります(笑)。


 「貧乏だけど努力して大学に合格した」

 フランスの社会学者ブルデューの『再生産』では、低階層から社会上昇を成し遂げた人のストーリーは、その社会は社会移動が容易くできるという誤認を生み(上昇できないのは自己責任)、結果的に、階級関係の保存に力を貸すことがあるという記述があります。

 簡単に言うと、「貧乏だけど努力して大学に合格した」というストーリーを強調することは、「貧乏人が大学に進学できないのは努力不足だから」という誤認を生むことがあります。

 実際には、貧困家庭に育った人のなかには、そもそも努力しようにも努力できなかったり、努力が認められなかったり、努力する前から努力する意欲をくじかれる人がいます。また、大学に進学できるかどうかは、努力ではどうしようもならない周囲の環境が大きな影響力を持ちます。「貧乏だけど努力して大学合格ストーリー」は、それらの人たちを「努力不足だから自己責任だよね」という風に排除してしまう恐れがあります。


 以上の内容が、私が大学で学んできて面白かったことの一部です。以下では大学院で何を学ぶか説明します。私は大学院では「大学生の学業に対する出身階層の役割」について調べたいと考えています。

 今まで教育社会学の分野では学業成績に対する出身階層の影響に関する研究が多くされてきました。簡単に言うと「家が裕福だと成績が良くなる傾向があり、それはその家庭に子どもを塾に通わす余裕があるからだ」といった研究です。しかし、それらの研究は高校までを対象にしたものが大多数で、大学において同様の研究をしたものは多くはありません。そこで、大学生の学業には生まれの影響は無いのかを調べようと考えました。

 Q7なぜ、大学院に進学しようと思ったのですか

 大学で勉強をしていくうちに、自分が何も分かっていないのではないかと思うようになり、もう少し深く学びたいと思い院進を決めました。また、進学予定の一橋大学では入学料・授業料・寮費(東京に無料で住める!)が免除されることや大学院の奨学金が貰えるということが分かっていたので、他の人よりも気軽に院進を決断することができたのではないかと考えています。


2.まとめ


 恵迪寮での生活についてのメリット、大学生活の思い出等たくさんお話してもらいました。恵迪寮から文系の大学院に進む人はとても珍しく、お金の問題など、とても参考になる内容が多くあり、こちらも勉強になりました。

 AHさんありがとうございました!


3.筆者の余談


今回も記事とはあまり関係がないですが、筆者が最近読んだ本で面白かったものを紹介します。

「裁判官だから書けるイマドキの裁判」

説明:同性カップルの間でも不倫は問える?冷凍保存の受精卵でことわりなく出産されてしまったら? あおり運転の実刑はどのくらい? 非正規雇用者の権利保護は? セクハラ・パワハラはどう争える? コロナで裁判はどう変わった? いろんな裁判から「今」が見えてくる。


結構薄い本なので、隙間の空いた時間で簡単に読める本です。

説明にあるように、本書では近年の裁判についての状況を説明していきますが、やはり裁判というものは人と人間のもめごと、争いごとを、裁判所が法律を用いて解決に導くものなので、その内容はそれぞれの時代で何が問題になるかをそのまま反映しています。「同性カップルの間でも不倫は問える?」という目を引く本書のキャッチコピーも、いまは珍しいかもしれませんが、時代が進めばよくある話になるかもしれません。


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寺子屋恵迪は2022年3月をもって活動を終了しました。

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